男子バレーボール日本代表は9月8日、アジア選手権2026の予選ラウンドでオーストラリアと対戦し、3-0(25-20、25-13、25-21)でストレート勝利を収めた。
オマーン、バーレーンに続く3連勝。日本は予選ラウンドを無敗で終え、9月11日の準々決勝へ進む。
この試合で、事前に大きなテーマとなっていたのがオーストラリアの「高さ」だった。
今大会の登録メンバーで比較すると、日本の平均身長は190.5cm。対するオーストラリアは203.8cmで、その差は13.3cmある。
そして、その差は数字だけのものではなかった。
ダーシーは日本の3枚ブロックが揃った場面でも、その上からハイセットを打ち抜いた。ポープも高い打点を生かし、ブロックアウトを何度も奪っている。
それでも結果は、日本の3-0。
日本は高さそのものを消したわけではない。むしろ、高さでは明確に苦しめられた。
では、その相手になぜストレートで勝つことができたのか。
スタッツと実際のプレーを重ねて見ると、この試合の勝因は「攻撃力」だけでは説明できない。
アタック得点は36-35。それでも総得点は75-54
まず、両チームの得点内訳を見てみたい。
| 日本 | オーストラリア | |
|---|---|---|
| アタック得点 | 36 | 35 |
| ブロック得点 | 7 | 4 |
| サービスエース | 7 | 2 |
| 相手ミスによる得点 | 25 | 13 |
| 総得点 | 75 | 54 |

最も興味深いのは、アタック得点が36-35と、ほぼ互角だったことだ。
セットカウントは3-0。総得点では日本が75-54と、21点もの差をつけている。
それでもアタックによる得点差は、わずか1点しかない。
つまり、この試合を「日本の攻撃力がオーストラリアを圧倒した」と捉えるだけでは、実際の内容を十分に説明できない。
差がついたのは、サーブとブロック、そして相手にもう一本プレーさせ続けた日本の粘りだった。
サービスエースは7-2、ブロック得点は7-4。
さらに相手ミスによる得点でも25-13と、日本が大きく上回っている。
もちろん、この25点すべてを「日本が引き出したミス」とするのは正確ではない。ただ、試合を通して日本がサーブで崩し、ブロックでワンタッチを取り、ディグから攻撃を作り直す場面が何度もあったことも事実だ。
オーストラリアの高さと真正面から競うのではなく、その高さを最も生かせる状況をできるだけ減らす。
日本は、そんな戦い方で13.3cmの差に向き合っていた。
西田有志|17本中14本。アタック決定率82.4%
その中で、アタックでは西田有志が突出した数字を残した。
この日の西田はチーム最多の16得点。
アタックは17本中14本を決め、アタック決定率は、
14÷17=82.4%。
非常に高い数字だ。
しかも、その14本は単純な強打だけで積み上げたものではない。
第1セット序盤には、石川祐希がリバウンドを取って攻撃を作り直すと、西田がライトからブロックアウト。
第2セットでは、スパイクフォームから柔らかいショットへ切り替え、ブロックの裏へ落とした。
第3セットに入ると、さらに存在感を増す。
大塚達宣のAパスからバックライトを決め、山本智大のディグからはブロックアウト。大塚のレセプションからライトクロスも叩き込んだ。
14-14と追いつかれた直後には、大塚のAパスからバックライトを決めて15-14。
さらに16-17と、このセットで初めてオーストラリアにリードを許した場面でも、髙橋藍のレセプションから強烈なライトクロスを決めて17-17に戻した。
高いブロックに対して、力任せに打ち続けるのではない。
強打、バックアタック、ブロックアウト、軟打。
状況に応じて選択肢を変えながら、得点を積み重ねていた。
比較すると、その数字の異常さがさらに際立つ。
オーストラリアで最も脅威だったダーシーも、この試合では17本のアタックを打っている。
ダーシーは12本を決め、決定率70.6%。
十分に高い数字だ。
それでも、
西田:14/17=82.4%
ダーシー:12/17=70.6%
同じ17本のアタックで、西田はさらにその上をいった。
観戦中に感じた「今日は西田がほとんど止まらない」という印象は、数字にも明確に表れていた。
髙橋藍|背面ショット、5エース、そして“全部やる”
この試合で最も会場を沸かせたプレーを挙げるなら、第2セットの髙橋藍だろう。
日本が9-5とリードした場面。
エバデダン・ラリーのサーブでオーストラリアを崩すと、髙橋は通常とは異なる体勢から、背面でボールを叩き込んだ。

試合後、髙橋自身も、この背面ショットが決まったことで、そこからリズムを作れたという趣旨の言葉を残している。
つまり、単なる派手なスーパープレーではなかった。
実際、その直後には髙橋自身がブロックでも得点している。
そして、この日のスタッツを見ると、髙橋の仕事は背面ショットだけでは到底収まらない。
13得点。
内訳は、
- アタック7
- ブロック1
- サービスエース5
アタックは10本中7本を決め、決定率70.0%。
さらにレセプション、ディグ、セットでもプレーに関わった。
第2セット17-7では、自らのサーブからラリーを作り、ディグでつなぎ、最後は西田へトス。西田のライトストレートにつなげている。
そして第3セット終盤。
16-17から西田の一撃で17-17に戻すと、髙橋がサービスエースを奪って18-17。
続くサーブでもオーストラリアを大きく崩し、日本の19点目につなげた。
その直後、判定をめぐるオーストラリアの抗議で、試合は長時間中断する。
それでも再開直後、髙橋のサーブはネットインからサービスエース。
この試合5本目のエースだった。
長い中断でも集中を切らさなかった。
試合後、髙橋は、優勝を一番の目標に置き、そのためにサーブ、スパイク、ブロック、レシーブと、すべてを出し切る意識で戦っていると語った。
この日のスタッツは、その言葉をそのまま映している。
攻撃する。
サーブで崩す。
ブロックで止める。
拾う。
必要ならトスも上げる。
髙橋藍の「全部やる」が詰まった一戦だった。
高さでは苦しんだ。それでもブロックは7-4
ただ、オーストラリアの高さが機能しなかったわけではない。
むしろ、その脅威は何度も見せつけられた。
ダーシーは12/17でアタック決定率70.6%。
ポープも10/20で50.0%を記録している。
第1セットには、日本が3枚ブロックを揃えてもその上から打ち込まれる場面があった。
そして第3セット16-15。
深津英臣のサーブでレセプションを崩し、オーストラリアはハイセットに限定された。
日本は3枚ブロックを形成する。
それでもダーシーは、その上から打ち抜いた。
この一本は、オーストラリアの高さを象徴するプレーだった。
それでも、最終的なブロック得点は、
日本7-4オーストラリア。
日本が上回っている。
その中心にいたのが、小野寺太志だった。

小野寺は4ブロック。
オーストラリア全体のブロック得点と同数を、一人で記録したことになる。
第1セットにはポープの攻撃をシャットアウト。
第2セット序盤にもブロックを決め、13-6ではクイックを止めた。
さらにエバデダン・ラリーも1ブロックを記録し、アタックでは6本中4本を決め、決定率66.7%。
平均身長では13.3cmの差がある。
実際、日本のブロックの上から打ち抜かれた。
それでも、ブロックで奪った得点は日本の方が多かった。
高さでは苦しんだ。それでも、ネット際の得点では負けなかった。
ここに、この試合の日本のしぶとさが表れている。
サーブで「高さを使わせない」|7-2以上に大きかった差
そのブロックを機能させるためにも、サーブは大きな役割を果たした。
サービスエースは、
日本7-2オーストラリア。
日本の7本の内訳は、
髙橋藍5
西田有志2
だった。
ただし、サーブの価値はエースの本数だけでは測れない。
第1セット、髙橋はエンドライン付近を狙ってエースを奪うと、次は前方へ落として連続エース。
その後も石川、小野寺、エバデダン・ラリー、深津らがサーブでレセプションを崩し、オーストラリアに理想的な攻撃を組ませない場面が続いた。
レセプションを崩せば、クイックやテンポの速い攻撃は使いにくくなり、ハイセットの割合が増える。
そうなれば、日本はブロックを揃えやすい。
もちろん、それでもダーシーやポープには高い打点から決められた。
だからこそ、「高さを封じた」と言い切るのは違う。
日本が狙ったのは、オーストラリアの高さと正面から競う回数を減らすことだった。
サーブで崩す。
ブロックで触る。
ディグで拾う。
攻撃ではブロックアウトやリバウンド、軟打を使う。
13.3cmという差を、そのまま13.3cmの勝負にしない。
それが、この試合の日本の戦い方だった。
石川を休ませた第3セット|大塚達宣が示した「誰が出ても強い」

もう一つ、この試合で大きかったのが第3セットだ。
日本は石川祐希をスタートから外し、大塚達宣を起用した。
その大塚が、攻守でしっかり役割を果たした。
アタックは、
6本中4本成功。決定率66.7%。
ただし、大塚の働きは4得点という数字だけでは見えない。
序盤には山本のAパスからレフトのストレートを決める。
難しいボールを好レセプションでつなぎ、ディグでも粘る。
さらに、自らAパスを返した直後にバックセンターへ入り、パイプ攻撃を決めた。
11-9ではブロックを利用してリバウンドを取り、そこから西田のブロックアウトへ。
終盤21-18ではレフトからインナーを決めている。
守備では山本も光った。
公式スタッツでは7ディグでチーム最多。
24-21の場面ではオーストラリアの攻撃を山本が拾い、その切り返しから髙橋がレフトのストレートを決めた。
そして最後の25点目も、大塚のサーブから日本がブロックタッチを取り、ラリーへ持ち込んだ末に宮浦健人が決めた。
石川を第3セットのスタートから外しても、日本は25-21で取り切った。
オマーン戦では途中から入った選手たちが流れを変え、バーレーン戦でも複数の選手が役割を果たした。
そしてこの試合でも、大塚、宮浦、河東らがコートに入りながら勝ち切った。
2戦目、3戦目は、より「全員で勝った」という印象が強い。
オマーン戦から見えていた「誰が出ても強い」という日本の厚みが、予選を進むにつれてさらに形になってきている。
初戦から続く修正|オマーン戦以降、7セット連続で獲得
日本は予選ラウンドを3連勝で終えた。
ただし、3試合すべてが順風満帆だったわけではない。
初戦のオマーン戦では、第3セットを20-25で落としている。
それでも第4セットを25-9で取り返し、3-1で勝利。
その後はバーレーンに3-0。
そしてオーストラリアにも3-0。
つまり、
オマーン戦で1セットを失って以降、日本は7セット連続でセットを獲得して予選を終えた。
西田は試合後、初戦では難しさを感じた一方で、2戦目、3戦目と良い形になってきているという手応えを口にした。
深津も、1戦1戦少しずつ修正できているという認識を示している。
一方、山本は、まだすべてを出し切っているわけではなく、ここからさらに状態を上げて優勝を目指したいと話した。
3連勝は「完成」を意味するものではない。
むしろ、
初戦で出た課題を、一つずつ修正しながら積み上げた3連勝。
そう捉える方が、このチームの現在地には近い。
深津はこの試合、高さのあるオーストラリアを相手にブロックを抜く難しさを感じながらも、スパイカーを信じてトスを上げたという。
一方の髙橋も、深津が託してくれること、信頼してくれていることに応えたいという思いを語った。
セッターがスパイカーを信じる。
スパイカーも、その信頼に応えようとする。
西田の82.4%という数字の背景にも、半年間積み上げてきたチームとしての関係性がある。
準々決勝へ|ここからは「負けたら終わり」ではなく「勝ちに行く」
日本は予選ラウンド3連勝で、9月11日の準々決勝へ進む。
対戦相手は、9月9日の試合終了後に決まる。
準々決勝までは2日間。
ここまで出場時間の長かった選手にとっては、コンディションを整えるための重要な時間になる。
一方で、出場機会が限られている選手にとっては、いつ出番が来てもいいように準備を深める2日間でもある。
ここからはノックアウトステージ。
一つの敗戦が、大会の行方を決める。
それでも深津が試合後に語ったのは、「負けたら終わり」という考え方ではなかった。
勝ちに行く。
西田も、1分たりとも1秒たりとも無駄にせず、ここからの3連戦に備える覚悟を口にした。
そして髙橋は、先を見すぎるのではなく、目の前の1戦を一つずつ勝っていくことを強調した。
今大会、日本が優勝すればLA28への出場権を獲得できる。
ただ、まずは準々決勝だ。
西田が決める。
髙橋がサーブで流れを変える。
小野寺が止める。
石川を休ませれば、大塚が入って仕事をする。
山本が拾い、途中から入った宮浦や河東も役割を果たす。
予選ラウンドの3試合を通して、日本は確実に状態を上げてきた。
3連勝は、まだ何も保証してくれない。
それでも、オマーン戦で落とした1セットをきっかけに修正を重ね、そこから7セット連続で取り切った。
次は9月11日。
「誰が出ても強い」日本が、ここから本当に試される。
LA28へ――本当の勝負は、ここからだ。



