攻撃得点は61-57。それでも日本は敗れた
女子アジア選手権2026・準決勝。
ここまで4試合連続ストレート勝利を続けてきた日本は、タイにセットカウント1-3(21-25、20-25、25-20、20-25)で敗れた。
今大会初黒星。日本の決勝進出はならなかった。
ただ、試合後のスタッツを見ると、少し意外な数字が並んでいる。
アタック得点は日本61-57タイ。
サービスエースも日本が2-0で上回り、ブロック得点は9-10とほぼ互角だった。
それでも総得点は、日本86に対してタイ95。
なぜ、日本はアタックで4点上回りながら勝てなかったのか。
公式スタッツと試合を通して記録した観戦メモを照らし合わせると、単純な「攻撃力の差」とは違う、この試合の構図が見えてくる。
日本1-3タイ|まずはスタッツで見る準決勝
日本は第1セットを21-25、第2セットを20-25で落とした。
第3セットは25-20で取り返したものの、第4セットを20-25で失い、セットカウント1-3で敗戦。
まず、チームスタッツを比較したい。
| 項目 | 日本 | タイ |
|---|---|---|
| アタック得点 | 61 | 57 |
| ブロック得点 | 9 | 10 |
| サービスエース | 2 | 0 |
| 相手ミスによる得点 | 14 | 28 |
| 総得点 | 86 | 95 |

最も目を引くのは、やはりアタック得点だ。
61-57。日本がタイを4点上回っている。
サーブでも2点を奪い、ブロックの差もわずか1点。それでも試合結果は1-3だった。
大きな差になったのが「相手ミスによる得点」で、日本14に対してタイは28。
ただし、この28点だけを見て「日本がミスを連発したから負けた」と結論づけるのは早い。
試合を追っていくと、日本が十分な形で攻撃できず、タイにボールを残される場面が何度もあった。
重要なのは、ミスの数だけではなく、そのプレーに至るまでの過程だった。
なぜ61得点しても勝てなかった? 日本を苦しめた「攻撃のつながり」
レセプションだけではない。「その次」で攻撃が完成しなかった
日本には、良いファーストタッチもあった。
その象徴が石川真佑だ。
石川はチーム最多となる49本のレセプションを担当し、エラーは0。Successfulは26を記録した。
日本全体のレセプション受数87本に対して、石川ひとりで約56%を受けた計算になる。
観戦中にも、石川のAパスから日本の攻撃が始まる場面は何度も確認できた。
福留慧美も長いラリーで好ディグを見せるなど、後衛からボールをつないでいる。
それでも、日本の攻撃が常にスムーズに完成したわけではなかった。
問題になったのは、ファーストタッチの「その次」だ。
関と栄、両セッターに見られたトスのズレ
この日は関菜々巳と栄絵里香の両セッターが交代しながらコートに立った。
しかし、試合を通してトスとアタッカーのタイミングが噛み合わない場面が目立った。
トスがアタッカーの入りたい位置から外れる。
助走とボールのタイミングが合わない。
本来なら強く振り切りたいところで十分な形を作れず、フェイント気味の軟打へ切り替える。
そうしたプレーが一度ではなく、複数回見られた。
もちろん、この敗戦をセッターだけの責任として捉えるべきではない。
レセプションの乱れ、二段トス、アタッカーとのコンビネーションなど、一つの攻撃を完成させるためには複数の要素が関係する。
ただ、この大会を通じて日本にはコンビの精度にズレが見える場面があり、タイ戦ではそれがより顕著に表れた。
一本目から二本目、そして三本目へ。
個々のプレーではなく、この「つながり」を最後まで安定させられなかったことが、日本の攻撃の選択肢を狭めていった。
強打できない。その先でもタイが待っていた
トスとタイミングが合わなければ、アタッカーは常に思い切って打てるわけではない。
実際、日本が強打を諦め、フェイントや軟打へ切り替える場面が見られた。
そして、ここからがタイの強さでもあった。
タイはそうしたボールに対してブロックタッチを取り、簡単にはボールを落とさない。
一度日本の攻撃を防ぐと、そこからもう一度、自分たちの攻撃を組み立ててくる。
日本が攻撃を「完成させられなかった」場面で、タイは次の攻撃を「作り直していた」。
この違いは、公式スタッツの数字だけでは見えにくい、この試合のポイントだった。
タイは何が良かった? 攻撃を「作り直す」強さ
日本の調子が上がらなかったことだけで、この試合を語ることはできない。
タイのバレーボールにも、称賛すべき部分が多かった。
ブロックタッチから始まるトランジション
印象的だったのが、タイのブロックと、その後の攻撃への移行だ。
タイはキルブロックでも日本を10-9と上回ったが、それ以上に目についたのが、ブロックタッチでボールを残す場面だった。
日本の攻撃を一度で終わらせず、ボールをつないで再び攻撃へ移る。
そして、ただ高いトスを両サイドへ送るだけではない。
状況に応じて中央も使いながら、日本のブロックに的を絞らせなかった。
崩れても中央を消さない。ポーンプンのトスワーク
特に印象に残ったのが、タイのセッター、ポーンプンの組み立てだった。
必ずしもAパスが返っているわけではない。
それでも、体勢を崩しながらワンハンドでクイックへトスを供給するなど、中央の攻撃を選択肢として残すプレーが複数回見られた。
通常ならサイドへのハイセットを予測したくなる状況でも、タイは簡単には攻撃を単調化させない。
これは日本のブロックにとって厄介だった。
タイの攻撃が多彩だった理由を、単純に「レセプションが良かったから」と説明することはできない。
むしろ、
多少状況が崩れても、攻撃の選択肢を消さない。
その組み立ての巧さこそ、タイの大きな強みだった。

ピンピチャヤ20得点、サシパポーン16得点。それだけではない
その攻撃を得点につなげたアタッカー陣も見事だった。
ピンピチャヤは20得点。アタック19得点にブロック1得点を加えた。
サシパポーンも16得点を記録し、両者だけで36得点を挙げている。
さらにミドルでは、タットダオが14得点。
アタックは11得点/21本、さらに3本のブロックを記録した。
両翼だけではなく、ミドルも得点源になる。
ポーンプンがミドルを最後まで選択肢として残し、それにアタッカーが応えたからこそ、日本は簡単に攻撃を絞り込めなかった。
日本の不調だけではない。
タイが自分たちの強みを発揮したからこその1-3だった。
第3セット、日本は何を変えて25-20で取り返したのか
それでも、日本が何もできなかった試合ではない。
その証拠が、第3セットだった。
和田由紀子のサーブから9-3。日本が主導権を握る
第3セット、日本は和田由紀子、関菜々巳、石川真佑、山口真季、鴫原ひなた、島村春世をスタートから起用した。
流れを大きく動かしたのが、5-3からの和田のサーブだった。
強いサーブから鴫原がブロックアウトを奪って6-3。
続けて和田自身がサービスエースを決め、7-3。
さらにサーブで相手を揺さぶると、島村がキルブロック。
そして鴫原もブロックを決め、日本は一気に9-3までリードを広げた。
このセットでは、日本が先に相手へプレッシャーをかけ、その後のラリーでも主導権を握る展開が増えた。
最終的に25-20。
タイから唯一奪ったセットには、日本がこの試合を戦うためのヒントもあった。
鴫原ひなたが変えた流れ
第3セットで特に存在感を見せたのが鴫原だった。
この試合では10得点。アタック9得点、ブロック1得点を記録している。
だが、数字以上に印象的だった。
ブロックアウト、ストレート、クロスとコースを使い分け、守備でもボールをつなぐ。
第3セット序盤には和田のサーブからキルブロックも決めた。
途中起用からチームに新しいリズムを持ち込み、流れを変えた選手のひとりだった。

第4セット10-7。それでもタイを振り切れなかった
第4セットも日本の入りは悪くなかった。
石川のサービスエースで2-0。
福留、鴫原らが粘った長いラリーを石川のバックアタックで仕留めて3-0。
その後も石川のブロックなどで10-7と先行した。
しかし、タイは11-11まで追いつく。
14-14以降、日本はブロックに捕まる攻撃やアタックアウトが続き、再び十分な形で攻撃を完成させられない時間帯へ入った。
第3セットで見せた修正を、試合最後まで継続することができなかった。
それもまた、この日の日本に残った課題だった。
敗戦の中でも際立った石川真佑|23得点+レセプション49本エラー0
敗戦の中でも、キャプテン石川真佑の存在感は大きかった。
両チーム最多の23得点
石川は、
- アタック:19得点
- ブロック:3得点
- サーブ:1得点
の計23得点。
日本だけでなく、両チームを通じて最多だった。
第1セットからクロス、ストレート、バックアタックで得点。
第4セットでもサービスエース、キルブロック、バックアタックと、攻守にわたってチームを支えた。
だが、この日の石川を23得点だけで評価するのは十分ではない。

チームの約56%を受けて、レセプションエラー0
石川が担当したレセプションは49本。
日本全体が87本だったため、約56%をひとりで受けたことになる。
それだけのサーブを受けながら、レセプションエラーは0だった。
公式スタッツではSuccessful 26。
そして観戦中にも、石川のAパスから日本の得点につながる場面が何度もあった。
攻撃で23得点を奪いながら、後衛では大量のサーブを受ける。
この日の石川は、攻撃だけでなく日本の攻撃を始める役割まで背負っていた。
まさにキャプテンとしてチームを支えた試合だった。

「明日もある」――最後の1試合へ
試合後、石川はこう話した。
「明日もあるので自分たちのバレーボールをするというところは変わらずやっていきたい」
決勝進出はならなかった。
しかし、大会はまだ終わっていない。
初黒星をどう次につなげるか。3位決定戦はイラン戦

日本が3位決定戦で対戦するのはイランに決まった。
もう一方の準決勝で中国がイランを3-0で下したため、日本とイランが大会最後の1試合を戦う。
タイ戦で改めて浮き彫りになったのは、コンビネーションの精度だ。
これはこの試合だけで突然生まれた課題ではない。
今大会を通して、トスとアタッカーのタイミングがずれる場面は何度か見られてきた。
一方で、大会を通じてさまざまな選手がコートに立てたことは収穫でもある。
鴫原ひなた、秋本美空、北窓絢音らが途中出場やスタメンで存在感を示し、山口真季もブロックという武器を見せてきた。
準決勝では敗れた。
それでも、このチームが大会を通じて積み上げてきたものまで失われたわけではない。
石川が試合後に語ったように、残されたのはあと1試合。
コンビのズレをどこまで修正し、チームとしてもう一度一つになれるか。
イランとの3位決定戦で、その答えを見せたい。
まとめ|「61-57」の先にあった差
日本は、アタック得点でタイに負けたわけではなかった。
61-57。
サーブでも2-0で上回り、ブロックも9-10とほぼ互角だった。
それでも1-3で敗れた。
この試合で見えたのは、一つひとつの攻撃力だけでは測れない差だった。
日本は良いファーストタッチがあっても、トスとのタイミングが合わず、十分な形で打ち切れない場面があった。
一方のタイは、ブロックタッチでボールを残し、多少状況が崩れてもポーンプンを中心に攻撃を作り直した。
一本目から二本目、三本目へ。
そして一度防がれた後、次の攻撃へ。
その「つながり」の完成度で、タイが一枚上回った準決勝だった。
ただし、日本にも答えは見えている。
石川は23得点に加えて49本のレセプションを受けてエラー0。
鴫原が流れを変え、第3セットは25-20で奪った。
第4セットにも10-7まで先行している。
すべてを作り直す必要があるわけではない。
できているプレーを、どう一つにつなげるか。
女子アジア選手権2026、日本に残された試合はあと一つ。
イランとの3位決定戦で、この敗戦を次につなげられるかに注目したい。


